マリの美術家アブドゥー・オウォログム



『布絵の魔術師・アブドゥー・オウォログム』   

西アフリカでボゴランとして知られる木綿の帯。この一枚の布を用いて独自の美術世界を拓いたアブドゥー・オウォログム。彼の祖先であるドゴン族の言い伝えによれば、織物は「ことば」であり、それを意味するソイと呼ばれている。神聖であり精霊そのものである布は、男性によって水平機で織られ、細幅木綿布としても知られている。この布を縫い合わせ幅広布にし、泥染や刺し子細工を施した工芸品は西アフリカでよく見かけられる。アブドゥーはこの伝統工芸にドゴン族の霊性を注ぎ込み独自の美的世界を展開させる注目のアーティストとなった。青年時代、マリの首都バマコで西洋美術学校に通っていた彼は、やがて現代美術や絵画に懐疑をもつようになり、自らのドゴンの伝統をふりかえるようになる。キャンバスをボゴランに変え、油絵の具を泥染めや植物性染料に変えた。具象、抽象を問わない自由奔放なボゴラン・アートの始まりであった。かれの才能は留まるところを知らず、数々の映画で革や布などの自然素材を用いた衣装や美術で話題をふりまいた他、ここ数年演劇の巨匠ピーター・ブルックの目にとまり、ベケットの「すばらしき日々」の舞台を羊皮で覆うという巧みさを発揮し、その後ブルックの何本かの作品を手掛けている。私と彼の付き合いは、ブルックの近作『ティエルノ・ボカール』の準備段階からマリで、彼やアーティスト仲間と交流した時以来だ。今回ルワンダの劇団員と共に来日するドルシーも『ティエルノ・ボカール』に参加して以来の付き合いである。共にアフリカの苦悩を芸術の力で希望へと転化し、社会に発信するトップ・アーテイストとして前進する彼らに限りないエールを送りたい。
(土取利行)

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  上記の文は今年の五月、横浜BANK ARTの招聘で来日した西アフリカ、マリ共和国の美術家アブドゥー・オウォログムの展覧会で私が書いた紹介文である。ブログを書き始めたとき、同じく横浜BANK ARTの招聘で来日したルワンダのドルシー・ルガンバについては記したが、出版記念の案内にページを割いていたため、もう一人のアーティスト、アブドゥー・オウォログムについて記すのが随分遅れた。これから少し彼のことについても書いておこう。