「山のシューレ」結び舞台で生まれた縄文土偶

報告
7月31日那須での「山のシューレ」結び舞台で生まれた縄文土偶

 梅雨が明けたと云うのに、にわか雨の多いぐずついた天気が毎日続く。7月29日から31日までの三日間、那須で開催された「山のシューレ」は連日悪天候に見舞われた中でのイヴェンとなったが、三日間の最後を飾る私と猪風来氏による結び舞台「縄文、音とかたちの原風景」は、縄文鼓の音に動かされ渾身の力を結集して作り上げた平成の遮光器土偶の完成をもって無事幕を閉じた。

猪風来作「縄文の女神像」(左)を背景に縄文鼓を演奏する土取
 「山のシューレ」の参加は始めてだが、会場となっている二期倶楽部での演奏は桃山晴衣ともども何度かおこなっており、ホテルオーナーの北山ひとみさんやスタッフの皆様と会うのも楽しみであった。東北大震災で二期倶楽部の建物も被害が生じ、福島の隣と云うこともあり、客足も普段より止まってしまったことだろうが、こんな時こそ余剰と見なされがちなアートイヴェントを続けることを決断し実行した心意気はさすがである。
 縄文鼓の演奏は、ここ二期の森で五年前に行って以来。今回は野外ではなく歓季館での室内演奏になり、プロの照明も音響スタッフもいないホールなので、舞台作りをシンプルにし、縄文の造形作家猪風来が、私の縄文鼓演奏で、一時間半くらいの間に土偶を作り出すという初の試みをした。縄文土器は手捻り輪積み法による時間のかかる造形であり、今回のような一時間半という限られた時間の中での土偶作りは、かなり例外的かつ冒険的な試みでもある。猪風来氏はかつて美術学校で現代アートも習っていたので、アクションペインティングのような抽象的な造形を生みだすかもしれないと思ってもいたが、予想外、というよりさすが、まったく手を抜くこと無く、縄文晩期の遮光器土偶を手びねり輪積み法によって間断なく作っていった。

完成した土偶、ニキチャンとエンディング
輪積みでスピーディーに一回ごと粘土をしめて形どって行く作業は手首や腕、指先にいたるまで、相当な負担がかかり並大抵のことではない。実際、猪風来氏は今回の作業中に腕が腱鞘炎状態になり動かなくなってしまった時もあったという。観客が固唾を呑んで造形を見守り、音に耳をそばだてる中、積んで積んで積み上げ、一気呵成に形作った土偶メルトダウンせずに音楽とともに完成したことは山のシューレ、最後の結びの舞台にふさわしいエンディングでもあった。完成したこの土偶、即座にニキちゃんと呼んでみた。この記念すべき土偶は、これから那須でしばしの乾燥期を経て一度猪風来氏による野焼きが行われ、再び二期倶楽部のどこかに鎮座することだろう。
 なお猪風来氏や縄文学の小林達雄先生が出演するTV番組『日本美術の一万年/魂の縄文アート:土偶』がNHK,BSプレミアムで9月5日(月)PM9:00から一時間にわたって放映されますのでご覧下さい。ちなみに音楽は私が担当致します。