MAREMBO

『ティエルノ・ボカール』の公演が世界を巡るようになり、ドルシーが日本食好きということもあって,彼とよく食事をすることがあった。あれはバルセロナの公演中だったと思う。少し市街地から離れたモール内にある日本レストランでいつものように一緒に食事をしていたとき、彼は一枚の写真を見せてくれた。それは彼がまだ若い頃、自宅前で一緒に撮った「唯一残っている家族との写真」だった。その家族こそ、1994年4月7日、ルワンダキガリでの大虐殺で犠牲になった最愛の両親と兄弟たち。彼が事件の被害者であり、難を逃れてヨーロッパへ避難してきたことは以前から知っていたものの、他の家族全員が一夜にして影も形もなくこの世から消されてしまっていたということは、初めてここで教えられた。孤独、絶望、追憶、憎悪、疑心・・・・・。まだ10年も過ぎていない悲惨な過去の出来事がどれほど彼を苦しめただろうか。沈着冷静な彼の歴史はあまりにも重く、到底私などに受け止められようはずもない。彼はこのとき多くを語らず、私も多くを聞かなかった。私がその悲惨な事件の一部始終を知ることになったのは、それから数ヶ月後、彼がパリで出版した『MAREMBO』という本を読んでからのことだった。