「ルワンダ94」から「追跡」へ

ルワンダでのジェノサイドを逃れたドルシーはフランス経由で、遂にベルギーへと辿り着いた。一般には知られていないリエージュという町の芸術創造集団グルポフに参加し、俳優の訓練を積んでいたドルシーは、やがて主宰者デルキュヴェルリーのもと、世界的な話題を呼んだ演劇「ルワンダ94」に出演し、俳優として知られるようになってくる。この演劇はルワンダで起こったジェノサイドをテーマに真を問うもので、1999年のアヴィニオンフェスティバルを起に、欧米各地で公演され、2004年にルワンダ各地での公演を実現した。『MAREMBO』にはドルシーの文章とともに、この時の公演の過程を撮った写真が多く掲載されている。(なお「ルワンダ94」でドルシーと舞台に立ったヨランド・ムカガサナは、実際にキガリでのジェノサイドを身を以て体験した女性で、昨年霜田誠二の主宰するNIPAFの招聘で来日したが、ほとんど公に紹介されなかったのが残念である)。ドルシー・ルバンガはこの「ルワンダ94」の舞台経験を経て、デルキュヴェルリーやP・ブルックの作品に出演したり、自ら演出作品を発表するなど、ヨーロッパで活躍する一方、故郷ルワンダでウルヴィントーレというグループを結成し、60年代にナチのジェノサイドをテーマにしてペーター・ヴァイスが書いた『追跡』を演出するにいたった。この作品はベルギーで上演された後、パリのブッフ・ドュ・ノール劇場、ロンドンのヤング・ビック劇場を経て、横浜のBANK ARTStudioの公演となった。