マリの音楽家ズーマナ・テレタ

 ブルックの『ティエルノ・ボカール』音楽製作のためにマリを訪れた時、俳優のハビブ・ダンベレのパートナーでありヴォーカリストのファンタ・トラオレ宅に多くの音楽家が集まり、私のために音楽会を催してくれた。様々なマリの伝統楽器奏者の中でもとりわけ一目置いたのが、ソクー(sokou)という楽器を弾くズーという音楽家だった。この楽器は小さな瓢箪を半分に切った共鳴体に蛇かトカゲの皮を張り、長さ20センチくらいの棹を取り付け、馬の毛を束ねた絃を一本張ったもので弓で弾く擦弦楽器の一種。この楽器の素朴な音色もさることながら心動かされたのは、ズーがこの弦楽器を弾きながら歌うブルージーな歌と低く野性味溢れる歌声であった。
 通称ズー、ズーマナ・テレタはマリのマシナ近郊のダンジェという村の出身。少年時代、漁師の家に生まれた彼は鍛冶屋の幼友達からこの弦楽器の作り方を教わり、この楽器の虜になった。ズーは音楽を愛してはいたものの職業音楽家にはならず、漁師からトラックの運転手に転職して15年働いたが、この間もけっしてこの楽器を手放さなかった。
 その後、様々な音楽家の集まりに顔を見せるようになり、次第に彼の才能が認められ、マリの代表的な歌手サリー・シリベはじめ、ズーマナ・シッソコの娘、テニン・ヂ二・ダンバやシディベ姉妹、ハワ・コニ、メイ・コネ、オウムー・サンガレ、ファンタ・トラオレ、ブルキナベ・ラッシナ・クーリバリーなど多くの音楽家とレコーディングを続けていくほか、バデマ・ナショナルやマリ器楽合奏団、ラップ奏者のジオンB、さらに多くの映画音楽と、今ではプロとして幅広く活躍している。
 ズーはまたアブドゥー・オウォログムの親友でもあり、私は「ティエルノ・ボカール」の音楽にソクーを使いたいと思いアブドゥーを通して彼にこの楽器を作ってもらったが、残念ながら劇中でこの楽器を使用する機会はなかった。ズーマナ・テレタのファーストアルバムは「ニジェール・ブルース」というタイトルで2003年に発売されている。

ズーマナ・テレタ


ズーマナが私に作ってくれたソクー