郡上のうた

この一週間、美濃、飛騨地方は一斉に春祭りで賑わった。からくり人形の山車が勢揃いする高山祭り、古川町の起こし太鼓と、全国に名高い祭りもこの時期に集中し、郡上八幡の町でも二日間にわたって神輿、獅子舞神楽を伴う三つの神社の春祭りが同時に行なわれた。
 この獅子舞で思い出すのが寺田敬蔵著『郡上の祭り』(全二巻)である。八幡在住の画家、水野政雄氏による郡上の獅子舞の絵が印象的なこの著書には、郡上七ヶ町村各地域で行なわれていた祭りの記録がまとめられており、郡上全体の祭りの系譜を知ることができる。著者の寺田敬蔵氏はこの他、郡上一円に伝わっていた郡上人のうた、生活の場面場面で歌い継がれてきた様々なうたを『郡上のうた』という一冊の本にまとめあげている。
 寺田氏は1929年に郡上の白鳥町で生まれ、その後、八幡町で履物商を営みながら、20年以上にわたってこれらの芸能調査に没頭し1990年に故人となられた。実は、著作『郡上の祭り』『郡上のうた』を発表されるまでには、まだテープレコーダーなど高価で持つこともできなかった時代に、録音機を手に郡上全域を巡り歩き、太神楽800曲、盆踊り歌450曲、作業歌180曲、祝い歌170曲等々、膨大な数の音楽記録を残しているのだ。寺田氏が逝かれて数年後、円空研究家の池田勇次先生が我が家を訪れ、私と桃山晴衣に『郡上のうた』を五線譜でも残してはどうかという相談にこられた。もちろん私たちは賛同しなかったが、すぐに五線譜になおすということは音源があるのではと聞いてみると、無数の録音テープが残っているとのこと。たまたま我が家に古いテープレコーダーがあったので、切れそうなリールテープを聞いてみると、感動的な郡上の人達の歌が記録されていた。私と桃山はすべての曲を聴き、これは絶対に残すべきだとの意を同じくし、選曲に多くの時間を費やし、当時の財団法人ビクター伝統文化振興財団から二枚組のCDアルバムとしてリリースするにいたった。この音源の多くは60年代のものだが、高度成長経済の波が地方にも押し寄せていたこの時代でも、なんとも多くの歌が歌われていたことか。生前、桃山晴衣は「生命のうた」ということをよくいっていた。CD「郡上のうた」は、そのようなうたで充ちている。

(CD「郡上のうた」はわずかに在庫が残っているとのこと。購入希望の方は、 http://search.japo-net.or.jp/item.php?id=VZCG-8062&rq=g/民俗芸能+民俗音楽&srt/nr&rqt= )