異空間でのソロコンサート
(ミルフォード・グレイブスのLPジャケットが飾られたJunc店内とjuncでの演奏)
60年代から70年代のLPジャケット、しかもすべてがフリージャズのそれが壁面に何十枚も飾られている。レコード店でもジャズ喫茶でもない、実はこの店、蒲郡駅前に昨年オープンした美容室junc。毛髪の隅々まで洗う洗髪マシーンを据えたガラス張りの開放的スペースにジャズが流れる。しかも洗髪、カットのみは1050円と格安。客層も若い女性だけにかぎらず、子供から老人までと幅広い。このようなユニークな美容室を豊橋近郊に11店舗も経営しているjuncのオーナー、R氏は70年代学生時代を京都で過ごしたことから、当時のフリージャズの殿堂zaboに入り浸り、その頃、私と近藤等則の演奏も聞いていたということから、なんとこの蒲郡の美容室でのライブが4月21日に行なわれることになったのである。当日、雨の中を郡上まで楽器を運びにきていただき、その車で蒲郡の店に着いたのは、ライブ開演の一時間前、おかげでシャンプーや化粧品の芳香につつまれた営業の終わったばかりの会場に観客が入ってくる中、楽器のセッティングをするというはめになった。雨にもかかわらず駆けつけてくれた大勢の観客の中には、30年も前に演奏した豊橋のジャズ喫茶のマスターはじめ、私と桃山晴衣が出会ってから最初に二人でもったコンサートを名古屋で開いてくれたグループ、また晩年を豊橋で送っていた高木元輝の面倒をみていたという人達など、懐かしい面々と同時に若者も入り交じっての異空間コンサートとなった。
(京都西陣、織成館岩上ホールと演奏会)
5月9日の京都でのソロ・コンサートも、かつて西陣の織物工場だった木造スペースでのもので、音響的にもやりやすい空間だった。こちらは昨年、『壁画洞窟の音』出版記念でレクチャーをやっていただいた、mihoプロジェクトが開催してくれ、京都の大学生が大勢ボランティアでコンサート実現にむけ参加してくれた。六月からのブルックとの仕事で日本をしばし離れることもあり、今回はドラムセットに加え、インド、アフリカの楽器を多く用いての色彩豊かなコンサートにした。最初、インドのバンスリ(笛)から初め、観客がかなり集中して聞いてくれたため、密度の高い演奏になったが、途中、ワークショップの生徒たちも交えて桃山の教えてきた「わらべ歌」をうたい、観客に京都のわらべうたを歌える人をとたずねてみると、かろうじて一人歌える人がいるという状態に唖然とする場面も。演奏が終わり会場外に出ると天には鼓面のような満月が光輝いていた。演奏終了後は、mihoプロジェクトのサロンyu-anでの打ち上げ。ここでは演奏を聴きに来てくれた高木正勝氏や反重力の面々、NHKのスタッフなど、若いアーティストたちと疲れも忘れて話し込んだ。
今度はどこのどんな異空間で演奏会がもてるか楽しみである。