呼吸するアルトサックスと呼吸するドラム

京都でのイベント今週です!

【ブレス・パッサージBreath Passage2011】
姜泰煥(Kang Tae Hwan)(アルト・サックス)
土取利行(パーカッション)
山田せつ子(ダンス)
9月10日(土)開場:17:30 開演:18:00
会場/京都河村能舞台京都市上京区烏丸上立売上ル)

河村能舞台http://www.kid97.co.jp/kawamura/
前売り:3800円 当日4300円
(予約、問い合わせ/E-mail/ p-hour@leto.eonet.ne.jp)
詳細/http://breath-passage.com/

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アルトサックス奏者カン・テーファンは、韓国の孤高の即興演奏家である。安保で揺れていた60年から70年代、日本の音楽界ではヨーロッパやアメリカの動向に影響を受け、自由を標榜する音楽家達が既成のロックやジャズを超えたフリージャズやパンクロック等に熱中し始めていた。で、韓国はというと、いわゆるスタンダードなジャズやロックさえも演奏することがままならぬ独裁政権が続いており、ましてやフリージャズなどを口にする者等もほとんどいない状況だった。中等高等学校時代からクラシックのクラリネットを吹いていたカン・テーファンは、60年代にソウル芸術大学でジャズと出会い、その後南北戦争の余波が残るアメリカ軍関係のクラブでビッグバンドに参加するなどして活動していた。そしてサックスでのジャズ演奏に切り替え1967年、23歳のときにリーダーバンドを結成する。しかしオーソドックスなジャズ演奏に疑問を持ち出した彼は、70年代後半から自由な音楽を目指し、独自の音楽スタイルを追求して行くようになる。この頃1978年のソウルはジャズミュージシャンでさえ30人程しかいなかったという外来音楽戒厳令の状態だったが、その中でフリージャズという過酷な演奏の道を彼は選択し、その意志は今日までぶれていない。70年代後半といえば私は間章との邂逅で近藤等則等とEEUなるグループを結成し、フリージャズからフリーインプロビゼーションを展開。その後すぐに渡米、渡欧し、欧米の即興演奏の大家たちとの演奏で連戦錬磨を繰り返し、ジャズとはおよそ縁のないと思われるピーター・ブルック劇団での音楽活動にも入って行く。さらに世界の民族音楽への興味からアフリカ、アジアの音楽を吸収し、日本の伝統音楽や古代音楽へと開眼して今にいたっている。しかし私自身、さまざまな音楽の道を彷徨っているようで、実は一貫している音楽姿勢と云うものがある。それはどんな音楽においても、即興演奏ということを重視してきたということである。カン・テーファンと共通するところがあるとすればこの即興演奏へのこだわりというところだろうか。彼はジャズによって洗礼を受けたアルトサックスという西洋音楽金管楽器だけに集中してこの即興演奏に向かうのに対し、私はあらゆるパーカッション、のみならず弦楽器も気鳴楽器も、時に声や歌をも使って即興演奏に向かう。今回のコンサートタイトルをみると「Breath passage」とある。吹奏楽器であるサックスにおいては呼吸や気息というのはもっとも重要な問題であるし、カン・テーファンは循環呼吸による息継ぎなしの奏法を長年にわたって追求してきた達人でもある。循環呼吸奏法というのは世界を旅してきた私にとっては何も特別な奏法ではなく、もうかれこれ二十年近く前になるがオーストラリアのアボリジニから教わったディジュリドゥーがそれであるし、バリ島でならったガムランの笛、スリンも循環呼吸奏法を使う。またインドには数限りなくこの奏法を用いた民族楽器があるし、古典楽器のシャナイというリード楽器をソロイストが演奏する背後で何人もの音楽家が循環呼吸奏法で、一つの音(ドローン)を流し続けるというものもある。このように世界の音楽をみれば、ごく自然な奏法も、西洋音楽という狭い音楽範囲のなかからみると、これが異様な音や奏法にみえてくるというわけである。カン・テーファンがいつどこからこの奏法を自分の重要なものとしたかは知らないが、彼にとってはそれが極自然なものだったのだろう。韓国は伝統的にも中国音楽の影響が強く、日本では馴染まなかったリード楽器が民衆の間でも数多く使われており、彼の演奏には韓国のリード楽器の歴史さえ感じることができる。

<80年代に発表した声の実験アルバム土取利行「Breath』より>
「Breath」、呼吸ということに関して言えば、私はドラムやパーカッションもすべて呼吸と関係すると考えていて、80年代、松岡正剛氏による「遊」という雑誌が出版されていた頃、「呼吸のドラミング」という文章をその雑誌に書いたこともある。実際その頃はブルック劇団の役者達に声やうたの指導もしていたことがあり、私自身ありとあらゆる声や呼吸法の実験や訓練をしていた。だから今、ブームになっているディジュリドゥやモンゴルのホーミーという歌唱法やチベット倍音声明等等、もう何十年も前に体験済みなのである。ということで今回はいうならば、呼吸するアルトサックスと呼吸するドラムの共演というところか。初共演、まさに息が合うことを楽しみに本番に臨む。なおもう一人、ダンスで参加して頂く山田せつ子さんとは随分前になるが、「フリーダカーロ」のダンス作品を一緒に創作発表したことがあり、それ以来の共演でこちらも楽しみである。またとない機会ですので是非ご参加ください。