バブリング・シンガポール

「11&12」アジアの旅のスタート地はシンガポール。ここには30年前に「マハーバーラタ」の音楽製作でバリ島に行くためのヴィザをとるために数日間滞在したことがあるが、高層ビルの林立するバブリングな街の変貌には驚かされた。役者たちは周囲が皆アジア人に変わったことと、高度な湿気と暑さの東南アジアの気候にとまどった様子である。アート・フェスティヴァルでの三日間の公演だったが次の地への調整のため10日間も観光客よろしく滞在させられたのには少々辟易した。劇場は300人くらいの席で音響もよく、観客の英語の理解力が明瞭でかなり良い反応があった。ただしホテル同様劇場のビル全体が冷蔵庫のような温度でクーラーを入れているため一時間半座っているだけで足腰が真冬の様に冷えてくる。この暑い国で皮肉にも寒さとの戦いだった。またここでは思わぬ出会いがあった。アート・フェスティヴァルとは別のイヴェントでインド人ダンサーのシャンタラ・シヴァリンガッパが同じホテルに泊まっていて久しぶりに彼女と話し、伝統および現代舞踊を観ることができた。シャンタラはブルックの「テンペスト」でミランダ役を、「ハムレット」でオフェリア役をやり一緒にツアーをした仲間であり、近年はピナ・バウシュ舞踊団の一員としても活躍する希有なダンサーだ。テンペストのときはまだ中学生くらいだったが、もう30歳を超えて踊りに円熟味が感じられる様になってきた。彼女が今回参加したのはアジアのパーフォーマーだけが集まりそれぞれがパフォーマンスを披露し話し合うという興味深い企画であった。マドラスからの四人の音楽家とともに演じた古典舞踊クチプディを見ながらこれまた30年前に滞在していたマドラスの光景を思い出していた。彼女とは近いうちに何か一緒に出来ればと思っている。

シンガポールの光景