「マハーバーラタ」から「11&12』へ

オーストラリアはピーター・ブルック劇団にとって思い出深い公演地の一つだ。1979年にシドニーで「イク族」「鳥たちの会議」「ユビュ王」の三作品を上演したが、場所は一般の劇場ではなく市外の石切り場での公演で、アボーリジ二との交流もあった。またその次に超大作「マハーバーラタ」を上演したのはアデレイドとパースであったがともに石切り場であった。特に「マハーバーラタ」は9時間にわたる長編劇で、一日三時間ずつに分けて上演し、週に一度は9時間続けてのマラソン公演をおこなった。9時間と行っても一幕ごとの休憩をいれると12時間におよび、夜始まった公演は朝日とともに終わる感動的なものであった。出ずっぱりの私は40以上におよぶ楽器の演奏もさることながら、夜から朝にかけての気候の変化で楽器のピッチが大きく変わっていくため苦労した。すべてはアコースティックな民族楽器でマイクは使用しないためそれぞれの楽器の音と演技とのバランスに室内とは違う神経を張り巡らせなければならなかった。このような演劇の大冒険はわたしにとって音楽を考える上でこのうえなく大きな体験をもたらせてくれたが、観客もまたこれらの体験を忘れがたく記憶している。
 今回の「11&12」はシドニーに五年ほど前にオープンした「シドニー・シアター」といういわゆる劇場内での公演であったが、オーストラリアはあの石切り場での公演以来、ピーター・ブルックの熱烈なファンが少なくない。「11&12」はシドニーでの単独公演だったのでアデレイドからのファンが大勢隊を組んで観に来てくれた。30年前の公演を昨日の出来事の様に目を輝かせながら終演後の私に語りかけてくる彼らと時を忘れて思い出話にふけった。

『11&12」を上演したシドニー・シアター

1979年、初めてシドニーの石切り場で公演したブルック劇団の面々と