アンニョンハセヨ・ソウル

「11&12」グループはシドニーからアジア最終公演地、韓国のソウルに到着。もう何十ヶ国も世界中を廻って来た私だが、韓国と中国にだけは足を踏み入れていず、まさに近くて遠い国だった。私の旅は日本から最も遠い国、アフリカに始まりいよいよ30年目にして隣国に達した。空港から街に向かいながら見る景色は日本の都市そのもの。街の看板のハングルがその違いを感じさせるだけで、全く違和感を覚えない国である。
 私たちの宿泊地はLGアートセンターのある江南区にあり、着いた夜は近くのレストランで食事。ここの店主のおばさん、おじさんがとても親切。ハングルしか話せないが丁寧に説明してくれ、俳優たちもかなり感動していた。
 翌日から劇場にでかけ楽器のチェック。スタッフがまた日本人とフィーリングまで似ているのでついつい日本語で話しかけてしまう。LGアートセンターは10年ほど前に建てられ国内外のアーティストのパーフォーマンスを積極的に上演しているまさにアートセンターといえる場所。非常に高い天井故に音響が非常によく,大劇場にもかかわらずマイク無しで問題なくプレイできる。
 私たちがソウルに入った頃、すでに韓国はワールドカップ第一戦でギリシャを征し街は祝勝で沸きたっていた。そしてとんでもないことに第二戦のアルゼンチンとの戦いが私たちの初演の時間と重なってしまったのである。優勝候補のアルゼンチンとの戦いということで、街はさらにフィーバー、歩く人たちは赤いTシャツ姿に衣替え、何万という人たちが街の各所に設けられた大型スクリーンの前に集まり決戦モード突入。劇場側とかなり議論したあげく、公演時間はそのままで押し通すことにした。しかし心配をよそに場内は入場券を予約購入していた人たちで満員。観客のサッカー熱に劣らない演劇熱に鼓舞され役者たちも気合いが入ったよう。字幕のせいもあるが一場面一場面ごとに笑いあり、沈黙ありの非常に観客の反応がよい。まずは上々の初演となり、二度目のアンコールで役者たちが赤い韓国のサッカーユニフォームに着替えて登場。さらに会場が沸きたった。公演後すぐに劇場はサッカーモードに切り替わり、打ち上げもテレビの実況中継を見て応援しながらの懇談。残念ながら強豪アルゼンチンを征すことはできずに終わったが、私たちの初演は心に残るものとなった。また着いた翌日からここでは色々なアーティストと会うことができ、とくに私の友人でピーター・ブルックや特にグロトフスキと長く作業を共にして来た俳優のドゥイ・チャンがさらに色々なアーティストとの交流を計ってくれるため、充実した毎日となりそうだ。またヨーロッパの公演では若者の観客が少なかったが、ここはとりわけ演劇を見る若い層が多い。韓流ブームのエネルギーをここにみた思いである。日本にこの公演がいけなかったことはいまもって残念である。

LGアートセンター

仁寺洞(インサドン)にて