茅屋根解体奮闘記 2

 杉の丸太を縦に横にとはりめぐらせ、その間にさらに数えきれないほどの竹の棒を結びつけ、ヨシズを屋根一面に敷き詰めながらその上に茅を何段にも重ねていき、内と外から縄で絞めて固定していく。なんとも時間と力を要する仕事であるが、今回は解体するにあたってこの縄の驚くべき効力を存分に見せつけられた。すすと埃だらけの屋根裏に上ってこの縄を一つ一つ切り離していくのだが、さすが二十年近くにわたって屋根を保持して来ただけあって、その結んだ箇所の多さたるや相当なもの、またこの締め方が半端でなく、職人魂の痕跡を見る思いである。まずは屋根の頭頂部から解体しなければならないが、ここはさらに念入りに仕事がなされていて、屋根の天辺で解体作業をした石坂もさすがに苦労していた。この頂点がかすがいのようになっていて、ここで二枚の板を合掌状に合わせたのが合掌作りの屋根。まずはこのかすがいの部分をはずし、そして無数に並ぶ縦の丸太と横の竹を結った縄、そこにヨシズを縛った縄、さらにその上に何段も重ねては締めた縄、これらの縄を一つ一つ切りながら大枠の材をはずすと一気に片側の屋根がすべて落ちる仕組みになっている。が、すべての縄は切れているのになかなか落ちず思案にくれていたら、横木に隠れた切っていない縄が一本見つかった。で、このたった一本の縄を切った途端に、山崩れのような勢いで轟音とともに何トンもある屋根が一気に落下。そのすざましさもさることながら、一本の縄がこれを支えていたという、何か教訓的な現象に驚愕。
 縄文時代という名前にもなっている、遠い日本列島に住んだ私たちの祖先が産み出した、撚って、結んで、締めるという技。神事のしめ縄の持つ意味もあらためて考えさせられた一日だった。それにしても一ヶ月近くかかって職人さんたちが締めてきた屋根を一日で解体したおかげで皆の手は腱鞘炎寸前、体は満身創痍状態となってしまった。
 このドラマチックな解体を終えた屋根は、これも難関作業だったブルーシートに包まれ修復をまっているところ。家のまわりは木材、竹材、縄くず、そして山のような茅が散乱し、なんともいえぬ状態であるが、この間、吉田川に散り行く樹々の葉は赤に黄にと日々変化し山々を燃え立たせている。この季節の移ろいが束の間、疲れを癒してくれてもいる。

ブナの木が美しい郡上の秋