韓国、高陽(コヤン)市の第17回チャンム・ダンス・フェスティバル

 昨年のP・ブルック劇団ソウル公演での韓国体験余熱がさめないまま、第17回チャンム・ダンス・フェスティバルのオープニング・プログラムでキム・メジャさんとのコラボ作品『光』を上演するため、再び一週間程韓国を訪問した。今回はソウル市の北に位置するソウル特別区高陽市に2004年に開設された文化センター、アラムヌリのアラムオペラハウスでの公演。

<フェスティバル会場のアラムオペラハウス>
オープニング・プログラムには、能楽師の安田登氏、尺八奏者の中村明一氏と私の三人による漱石の『夢十夜』、キム・ヨンスクの韓国宮廷舞踊『Chunaengjeon (春營輾)』、ナム・ヨンホの現代舞踊『the prayer』、そして最後をキム・メジャと私の『光』が飾った。この作品は、昨年12月の奈良で開催されたNARASIA2010で絶賛を博し、金梅子(キム・メジャ)さんが、韓国でも上演したいということで今回の上演となったのだが、常に創造的であるメジャさんのこと、訪韓前にこの作品にチャンム・ダンス・カンパニーのベテランダンサー三人を加えたいとの知らせがあった。

夢十夜の舞台>

<光/チャンム・ダンスカンパニーと>
 本番三日前に高陽市に着き、翌日からは二日間にわたってワークショップ。ダンサー、役者、音楽家二十名近くの参加者が集まり、ジャンルの異なる者同士が、創作を行っていく際に必要な様々なコミュニケーションの方法を即興を通して探るようプログラムを組んでいたが、二日目は音楽家が勢揃いしたこともあり、かなりハイテンションの動的なワークショップになった。この二日間、友人で俳優のチャン・ドゥイ氏が通訳を兼ねて参加してくれたことで、よりコミュニケーションがはかれ、とても助かった。(彼は昨年同様、滞在中食事に誘ってくれたり、家に招待してくれたりと、またまたお世話になってしまった)。

<ワークショップ>
 三時間のワークショップが終わった後は、メジャさんから連絡を受けていた三人のダンサーが加わった振付けを見せてもらいリハーサル。キム・ソンミ、チェ・ジヨン、キム・ミソンのベテラン女性舞踊家、キム・メジャ率いるチャンム・ダンスカンパニーの精鋭たちである。劇場でも二度程リハを繰り返し、舞踊家四人の動きも観えるようになってきたのだが、パーフォーミングアートは演者だけでなく、照明や音響、また観客によっても大きく様変わりしてしまう生き物であり、本番では会場の舞台スタッフの音響や照明に演者のコミュニケーションが少々閉ざされてしまい、前日のリハでの気迫に満ちた音と動きの交換がスムーズにゆかなかったのが心残りだった。そもそも三人のダンサーを加えるというアイデアは、この八月に岡山の美星町中世夢が原の野外舞台でという企画が立ち上がり、先々月キムさんが会場を下見に訪れた際に思いついたもので、いわば今回はその前哨戦の舞台ともいえるものだった。今回の公演を踏まえて、美星町での野外公演ではより素晴らしい舞台が展開できるよう、さらなる作戦を考えよう。

<左からキム・ミソン、チェ・ジヨン、キム・メジャ、土取利行、キム・ソンミ(美星町公演メンバー)>
 ところで、毎年世界各地から舞踊家を招いて押し進めてきたチャンム・ダンスフェスティバルは今年で17回目。その主軸になっているのがキム・メジャさんで、運営委員会との様々な打ち合わせやプログラム内容、予算等々、雑多な問題を抱えながら、毎年こうした大規模な国際フェスティバルを続けてこられたことに、まったく脱帽せざるを得ない。また彼女は韓国で伝統舞踊と現代舞踊の境界を越え、創造的舞踊を展開してきた韓国舞踊界のパイオニアとして君臨しているだけでなく、今回共演することになった三人の舞踊家のように、チャンム・ダンスカンパニーの一員としてのみならず、すでに個人としても優れた舞踊作品を発表しているトップダンサーを次々と育ててきた舞踊の母でもある。
 彼女との出会いで、奈良に始まったこの創造的旅は、韓国高陽市、そして次回の岡山美星町と、これからもしばし続くようである。インドやインドネシアとも長い文化交流をしてきたが、今は韓国とのこうした時期が到来したのかもしれない。