イギリス公演最終地、キングストン・アポン・テームズ

 今年初め、ロンドン・バービカン劇場からスタートした「11&12」のイギリス公演は、中にニュージーランドウェリントンを挿んで、グラスゴーノッティンガム、ニュー・キャッスルを経てキングストン・アポン・テームズで終わる。ここキングストンはロンドンのウォータールー駅から列車で30分ほどのテームズ河に沿った小都市。劇場は、ロンドンのグローブ座の構造を取り入れ、2年ほど前にオープンしたというローズ・シアター。バービカン劇場は、観客との距離がかなり離れた大劇場で肉声や生音でこの距離の問題を縮めるために四苦八苦したが、ローズ・シアターは全く逆で、舞台から最後の席の観客までが手に取る様に見えるやりやすい距離感である。一階座席は弧を描いて配置され、中央部が椅子のない平土間となっている。舞台にかぶりつきのこの土間は千円ほどで、学生や演劇好きにとっては願ってもない席でもある。が、舞台の方は左右の控えのスペースがほとんどとれない上に、奥行きがなく、バービカン劇場舞台の半分以下の広さだ。観客との距離は理想的だが、役者同士の演技の距離がここでは問題になってくる。ピーターはニューヨークにいて同行できなかったが、以前ここをすでに視察しており、マリエレーヌに衣装や道具をさらに簡素化し、役者の身振りや顔の表情なども極力抑えるよう指示。上演数時間前の切り替えで少々混乱したが、さらなる大胆な簡素化によって観客、役者、そして終始舞台に座している私の間のエネルギーに充実感がみなぎった。ツアーでは劇場から劇場へと移動を繰り返していくが、そのたびごとにこうした演劇の本質ともいえる見えないエネルギーについて多くを学ぶことができる。そしてこれこそが音楽の本質でもあるのだ。




写真(上)ローズ・シアター (下)テームズ河沿いのキングストン市街地