土取利行+韓国打楽器集団ノルムマチ・郡上独占初公演

 ここしばらく「添田唖蝉坊・知道演歌」に集中していたが、5月は久々に本格的なパーカッションの演奏会を開催する。韓国ソウルを拠点に世界各地で巡演を続けている打楽器集団ノルムマチを我が本拠地郡上八幡に迎えての公演である。
 まずは公演のお知らせ。
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日韓パーカッションアンサンブル「土取利行&ノルムマチ」
2013年5月6日(月・休)PM6:00開場 PM7:00開演
会場:郡上市総合文化センター(2F文化ホール)
前売り:3500円 当日4000円
予約・問い合わせ/080-1994-4647

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 ノルムマチとは韓国語で遊びを意味するノルムと、終えるを意味するマチとの合わさった言葉で、大意は一緒に遊び終える人ということらしい。
 このノルムマチは、かつて1970年代に一世風靡したサムルノリの名手イ・グァンスによって1993年に結成された。当時のグループは様々なクガク(国楽)のメンバーで構成され、チェサンソゴ舞のマスター、キム・ウンテ、テピョンソ奏者のチャン・サイク、パンソリ・マスターのハン・スンソクそしてこの中に、最年少のキム・ジュホンが入っていた。しかし1995年のデビューコンサートの後、メンバーはそれぞれ各々の活動に従事し、キム・ジュホンが新たにリーダーとなって、他の国楽者とグループを結成した。

サムルノリ・オリジナルメンバー<左より:イ・ガンス、キム・ヨンベ、キム・ドクス、チェ・ジョンシル>
 今回来日するノルムマチの現リーダー、キム・ジュホン(金株弘)は生まれが韓国の最西南端に位置する珍島(チンド)で幼少から巫楽に親しみ、1993年ノルマチ入団後は自らパンソリも修得している唄の達者でもある。ノルマチの基本は四つの楽器からなるサムルノリであるが、ジュホンはこれら一つ一つの楽器をフューチャーした楽曲を作り、口唱歌のような合唱や、踊りなども新たに加えながらノルムマチのレパートリーを開発している。彼らのメインとするサムルノリとは四物(サムル)で遊ぶ(ノリ)を意味し、この四物は彼らの奏する異なる四種の楽器からなる。

<ノルムマチ>
 四物の楽器には、まず円形の薄い径20cmくらいの金属製鉦ケンガリ(小鉦)があり、これはシンバルのような鋭い高音域の打音を発し、一際目立ったアクセントリズムを供給する。もう一つのジンという銅鑼の一種はケンガリと対照的に余韻のある低く深い音を提供し全体のリズムの節々に打たれる。これら二種の金属製楽器に対をなすように二種の皮膜楽器がある。まずはおなじみのチャング(杖鼓)で、全長70~75センチくらいの木製砂時計型胴に両面皮膜を張った横打太鼓である。左右異なる撥で打ち、軽やかで複雑なリズムを打ち出せる楽器の花形ともいえる。この高音域のチャンゴに対し、低音行きのプクという太鼓がある。これはパンソリにも使われ、ジンと同様に間をとりながら拍子をキープする重要な楽器である。このように二つの高低に分かれた金属楽器と皮膜楽器によってリズムの宴を醸し出すのがサムルノリで、これらの音楽の起源は放浪芸能集団・男寺党(ナムサダン)に遡る。
 ナムサダンは李朝時代からこの数十年ほど前まで朝鮮半島各地を巡回して人々を楽しませていた芸能集団、男たちだけで構成されていて、とりわけ李朝時代には厳しい身分差別の試練を受けながら、芸を守り抜いて来たたくましい文化伝導者である。李朝社会は職業と深く結びついた身分制度両班(ヤンバン:支配階級者)と良人(サンノム:常民ないし被支配階級)、そして細かく分けられた奴婢が制定され、奴婢の男寺党は中でも最下層の八賤(私奴婢、僧侶、白丁、巫堂(ムーダン)、広大、喪輿車、妓生、工匠)に属していたとされる。

<男寺党:ナムサダン>
 放浪芸人・男寺党は秋冬の収穫の余興で農村を廻り、春夏には豊漁祭で漁村を巡る。風物(プンムル:農楽)、皿回し、とんぼ返り、綱渡り、仮面劇、人形劇などの遊戯で民衆を喜ばせ、祝福し、祈願した。これらの楽を奏でるのが四物の打楽器とテピョンソ(太平簫)というチャルメラのようなリード楽器。今回のノルムマチもこの楽器編成で組まれている。
 1970〜80年代にかけて韓国はもとより、日本でも多くの人に韓国民衆音楽の強烈な印象を与えたサムルノリのリーダー、1952年生まれのキム・ドクスはまさに近代化が始まりこうした放浪芸が、国楽の芸術音楽とみなされる以前の男寺党に5歳の頃から入団し、7歳の時に全国農楽競演大会で大統領賞を受賞している異才。1970年に韓国国楽芸術学校を卒業し、1978年にサムルノリを結成し、80年代に世界公演に赴き、存在を知らしめた。
 このサムルノリ創設メンバーが、キム・ドクス、キム・ヨンベ、イ・ガンス、チェ・ジョンシルの四人で、ノルムマチの創設者がこの中のイ・ガンスということである。今回競演するキム・ジュホンはイ・ガンスやキム・ドクスの弟子であり、サムルノリの次世代にあたる。いわば私の子供のような世代であるが、彼らが今後伝統と新たな創造をどう拓いてゆくか、大いに期待するところであり、演奏が楽しみである。

<ノルムマチ>