ガチャチャ裁判

先にルワンダではジェノサイドの裁判がいまだ続行されていると書いた。わたしたちにはあまり知らされていない話ではあるが、『追跡』上演の際に配布されたプログラムにルワンダの女性アリス・カレケジさんが書いたこの裁判制度の文章が掲載されていたので記しておこう。

<ガチャチャ(GACACA)の裁くもの>
「ひとつの共通の問題がある。殺戮における一般市民の役割を理解することである。ふたつのケースを考えてみよう。1963年フランクフルト裁判と今日のルワンダにおけるガチャチャ裁判である。ガチャチャはルワンダ特有の社会システムであり、フランクフルト裁判とは対照的な問題分析を提示している。フランクフルト裁判で、最も重要な役割を演じるのは法律である。それは中立であり、国家の利益を代表する。一方ガチャチャは公的機関によるものであるが新しいアプローチである。フランクフルト裁判は、正義の普遍的基準を要求するが、ガチャチャはむしろルワンダ人特有の問題を解決するため設計されている。このシステムは、古代ルワンダに発し、共同体に依拠して発展した。それは様々の意味で共同体参加の場である。判事は、共同体の中から他の共同体構成員が選出する。法律家ではない。共同体構成員は立会人であり、訴求にも弁護にも参加する。判決は陪審員の総意で決まり、一般聴衆も発言できる。フランクフルト裁判が有罪の立証と量刑のみに焦点があるのに対し、ガチャチャの特徴は、さらに、真実を掘り起こし、悔い改める罪人への許しの可能性を用意していることである。」

この文章を書いたアリスさん。実は日本駐在のルワンダ共和国大使夫人で、ドルシーとはブタレの大学で同級生だったとか。現在はガチャチャの研究家としても活動しており、ウルヴィントーレの『追跡』上演後にもたれたレセプションにかけつけてくれた。真っ赤なアフリカンドレスをまとった容姿端麗のかの女はドルシーとの再会を喜び、ウルヴィントーレの面々が日本で公演できたことをなによりも誇りに思うと喜んでくれた。また最終日にはアリスさんの夫であるルワンダの駐日大使にもお会いしたが、とても文化に造詣が深く、二人とも政治色を感じさせない人間味溢れる人たちだった。