マリの狩猟音楽家の弦楽器ドンソ・ンゴニ

 マリの弦楽器カマレ・ンゴニについて書いてきたが、もう一つ強烈な印象を与えられたンゴニがある。ドンソ・ンゴニという楽器で構造的にはカマレ・ンゴニと同じだが非常に大きな瓢箪の殻を共鳴体に用いている。伝統的にはマリの西南部ワスル地方の猟師が狩猟儀礼に用いている楽器で、今でも職業音楽集団によってこの種の音楽が守られている。
 ある日の午後、ソティギ・コヤテに連れられて彼の親戚の家に行った。私のためにすばらしい音楽家を招待してくれたという。大勢の人が中庭に集まって雑談をしているなか、宝貝の飾りをちりばめたインディゴの衣装をまとい、大きなドンソ・ンゴニを抱えた楽士がやってくるなりソティギにひざまづいた。すぐに、かけ声のようにバンバラ語の短い挨拶が二人の間でしばらく繰り返される。やがて楽士はンゴニのリズミックで力強いビートに乗って低く太い声で門付け者のように語り、歌う。地を踏む足が砂煙をあげる。このンゴニで歌う奏者に、もう一人の楽士がついている。彼はンケレニェというスリットの入った鉄パイプのササラを擦りながら相づちを打つ。ときに歌でソティギを讃え、集まった人たちを讃える。私は彼らの語り、歌う意味こそ分からなかったが、終わることのないペンタトニック旋律の短いフレーズに音楽の霊力を感じた。この楽器もまたワールドミュージックやポップスの世界で注目され、その名人たちが脚光を浴びるようになっているが、音楽が一人一人に直接語りかけていくこのような姿こそ惹かれるところである。