マリの音楽家たち

 マリの音楽家ズーマナに作ってもらったソクー(一絃の擦弦楽器)は残念ながら「ティエルノ・ボカール」の劇中では用いることがなかったが、この演劇に採用したマリの弦楽器が一つだけあった。カマレンゴニという弦楽器で、よく知られている弦楽器コラの原型ともいえる素朴な楽器である。羊の皮を張った瓢箪の殻に、十数本の糸巻きを持つ一メートルくらいの棹が着けられた比較的小さな弦楽器だ。バマコ音楽学校に案内された時に紹介されたこの楽器の音を聴いて「これは演劇に」と思った私は、若い音楽指導員が自分で作ったというこのカマレンゴニを譲ってもらい、「ティエルノ・ボカール」の音楽に欠かせない楽器となった。
 マリにはコラやカマレンゴニ、ソクー、ンゴニなど多くの弦楽器が見られ、これらは主に吟遊詩人であるグリオが奏でていたものだが、現在ではこれらの楽器がポップスにも使用されたり、独自の器楽曲として洗練されたりと、多岐にわたって変化を遂げている。先に紹介したズーマナの歌声とソクーの演奏を聴いた日、ブルック劇団で共に仕事をしてきた名優ソティギ・コヤテの一声で多くの音楽家がハビブ・ダンベレの家に集まって様々な弦楽器のプレイを披露してくれた。昼間の喧噪から一転して、豊饒な調べの中にアフリカを実感した。

    

マリのカマレンゴニ奏者たち