桐生でのコンサート

1988年に岐阜県郡上八幡に立光学舎を設立して以来、定期的にワークショップを開いてきた。訪れた多くの参加者の中には、音楽家や俳優を志す者も少なくなかった。そんな参加者の一人にプロの太鼓奏者を目指していた石坂亥士がいた。現在は群馬県桐生市に拠点を置き、神楽太鼓を中心とした独自の音楽活動を展開している。十年近く音沙汰がなかったが、昨年あたりから私のコンサートによく顔を見せるようになった。その彼の呼び掛けで桐生の「有鄰館」でジョイントコンサートを行なった。
 桐生には、のこぎり屋根で知られるかつての織物工場が多く残っている。主産業だった織物がすたれ、そのよすがを残す工場は、さまざまな形で利用されている。今回のコンサート会場「有鄰館」も、のこぎり屋根でこそないが、かつての桐生の繁栄を誇るれんが造りの大きな建物だ。現在、行政の管理下にあり市民の各種イヴェントにも提供されており、石坂もここを音楽活動の拠点の一つとしてよく利用しているという。わたしとの共演ということで、当日の演奏にはかなり力が入っていたと思うが、なによりうれしかったのは彼がずっとプロとしての志を失わず、演奏することだけでなく、あらゆるところに目を向けて歩むようになったことだ。かつて、イベントというのは苦労の分だけ成功、充実するということを、かれに間接、直接に説いたことがある。多くの人の協力を得て実現した今回のコンサートは、まさにそのことを物語るものだった。本コンサートについての詳細は石坂自身のブログ(http://www.dragontone.org/cgi-bin/diarypro/diary.cgi?no=225)にゆずるとして、これを機に彼が、より広い視野で自らの音楽世界を拓いてゆくことを期待したい。
 桐生訪問にはもう一つの目的があった。日本で初めて旧石器時代の存在を証明した相沢忠洋発見の岩宿遺跡と博物館を訪問することだった。石坂のドライブで無事この目的もかない、コンサートに見えた観客の中には相沢忠洋直良信夫、藤森栄一等、伝説の考古学者や、私自身多くの示唆を与えられた素晴らしい論文を残された三木成夫に直接教えを受けていたという人たちが観客として来場してくれていたのも感激だった。
 
桐生でのコンサート(photo:takayui Saito)

岩宿遺跡記念碑