円空作「粥川鵺縁起」

 

私の住む郡上市に美並という町がある。町といっても長良川が蛇行し、四周を高い山々に囲まれた山村で、歴史民俗誌的にも興味深いところである。この美並町で最も注目されるのが町のシンボルともなっている「円空」。修験僧、木喰遊行者の円空は、誰もが知っている作仏だけでなく、千六百余といわれる歌をも書き残している。これらの歌は古今和歌集をモデルにした短い歌が多いのだが、美並の星宮神社には円空作の「粥川鵺縁起神祀大事」と題された和讃が残されている。そこに書かれているのは、天暦年中、奥美濃の瓢ヶ岳(ふくべがたけ)に住む妖鬼を藤原高光が退治するという伝説だが、鬼退治の話は余りにも少なく、やたらと全国の霊山が列記されているのが特徴的な書である。
 十数年前、私と桃山晴衣は私たちの拠点、「立光学舎」でこの高光鬼退治伝説を地元市島歌舞伎の俳優たちと太神楽劇として上演した。この芝居についても書きたいことは山ほどあるが、またの機会とし、つい先日美並町の星宮神社でこの「粥川鵺縁起」を能楽師の安田登氏と上演する運びとなった。美並町在住の円空研究家、池田勇次先生より依頼を受け、ここ数年おつきあいをさせていただいている安田さんに声をかけ、能の謡と語り、そして私の笛と太鼓で円空の書に息吹を与え、物語を蘇らせた。美並町にある円空研究センター開館5周年記念行事として郡上市の未公開円空仏が星宮神社横の円空ふるさと館で展示公開され、神社拝殿で私と安田さんの「鵺縁起」が披露されたというわけである。
以前は農民歌舞伎の役者たちと、そして今回は能楽師の安田さんと、まったく異なる形での上演となったが、この円空の一作、なにか縁が深そうである。以下は当日の新聞記事である。