二冊の本
バービカン劇場、そしてわが宿泊施設のある地域は土、日になると平日とはうって変わって静まり返るオフィス街。公演休みの日曜、ロンドンにくればかならず出かけるチャイナタウン界隈を散策。中華街で昼食をと思っていたら、通りという通りは人また人の大混雑。レストランも一人でぶらり入れるところはなく、どこも行列待ち。なんと今日は中国人の新年、日本人の旧正月にあたる日。それで商店街のいたるところに鮮やかな提灯が垂れ下げられ、爆竹の音が耳に耐えないのだ。人ごみの中をあるいていると、派手なシンバルと甲高いゴングの金属音が聞こえて来、足を運ぶと色鮮やかな獅子舞が店の前で角付け芸を披露していた。幼い頃、獅子舞の鼓をうっていた風景が一瞬脳裏をよぎった。
新年の喧噪から逃れ、もう一つのかならず立ち寄る場所へ向かう。FOYLEという書店である。ここは訪れるたびに新たに手にする本が置かれてある。特に民族音楽に関しては貴重な資料が得られ、オックスフォード大学出版のコリンマーフィー著「バリ島のガムラン」や私が訪れたことのあるナイジェリアのイフェ大学から出版された本格的なトーキングドラムの論文集等々を以前ここで購入することができた。今回は民族音楽ではなくジャズの本棚から二冊の本を購入した。間章の本を思い出させるかのような分厚く黒いカバーの一冊、Ben Watson著『DEREK BAILEY and the story of free improvisation』、もう一冊はJason Weiss編集『STEVE LACY conversations 』。多くの即興演奏家たちに限りない音楽の可能性を示してきた二人の偉大なインプロヴァイザー。スティーヴは2004年、デレクは2006年、共に申し合わせたかのようにこの世を後にした。私は間章との活動を通して彼らと演奏する幸福を何度か得、即興という音楽のコアを知ることができたことを今幸せに思っている。彼らの足跡をこれらの本でもう一度ゆっくりと確かめてみたい。