ご縁霊

 昨年暮れに桃山晴衣が他界してから一人喪に伏していた正月明けに、NHKディレクターの上野智男氏が家族、友人を連れ添って、わが立光学舎を訪ねてくれた。その友人の中に初めて会うエリック・マリア・クテュリエというチェリストがいた。ベトナム孤児としてフランス人の義父母に育てられた、パリ在住の国際的音楽家だが、その風貌は日本人そのもの。実はこのエリック、最近公開されて話題をよんでいる長編ドキュメント映画『五円玉』のメイン・キャストでもある。
 『五円玉』の概要は、<佐賀出身の江口方康監督作品。国際的に活躍するパリのチェリスト、エリック-マリア・クテュリエは、パリ旅行中の乳がんを患う山ちゃんこと山田泉から渡された5円玉に引き寄せられるように、山ちゃんの住む大分へ旅立つ。山ちゃんはガンを再発してから[いのちの授業]で、命の大切さを子供たちが考える場を作ってきた。1枚の五円玉がもたらした縁が、チェロの音色や大分の然とともに観ているものの胸を響かせる。限りある命だからこそ生まれた、やさしさに満ちた愛の実話です>とある。映画化される前にNHK教育テレビでも山田泉さんのドキュメントが放映され反響を呼び、その後、上野氏の製作統括によって映画化が実現したそうだ。
 訪問客が次々と桃山の遺影に手を合わせてくれたあと、エリックが車に積んであったチェロを持参。映画の中でも演奏しているバッハの無伴奏組曲が立光学舎でも流れることになった。桃山は、この突然の音楽礼拝にさぞかし驚いたことだろう。霊前で弓を弾くエリックを見ているうちに、わたしもインドのガタム(壷太鼓)を持参し、いつしか二人で即興演奏と相成った。
 音楽家は演奏を通じて霊的な交流ができる。長く続いた二人の即興演奏に、いつしか桃山の音霊も参加し、素晴らしい一時が流れていった。映画は『ご縁玉』だが、ここでは音による『ご縁霊(だま)』が繰り広げられた。