I am yusuf and This is my brother at Young Vic

リハーサルが大詰めを迎えている。演劇空間として最高の理想空間であるブッフ・ドュ・ノールからバービカン・シアターの未知の空間に移動して、役者たちの演技や台詞、そして音が一つの生命体となって動き出すよう様々な試みが繰り返されている。
 長いリハの後、昨夜はイギリスにおける私のブルック劇団での初舞台(1978年上演の「ユビ王」)を飾った思い出の劇場、ヤング・ヴィック・シアターに招待されイスラエルパレスティナ人たちが上演する「I am Yusuf and This is my brother」という作品を観に行った。私たちの「11&12」に出演している二人のイスラエルパレスティナ人俳優、マクラムとカリファたちの親しいグループで、ディレクターは自ら脚本も手掛ける30歳前のAmir Nizar Zuabiという鬼才。
 物語は、イスラエル西岸のパレスティナ村落で1948年に起こった悲劇。英国の統治が終焉を迎えたこの年に、国家という得体の知れない暴力によって小さな村の住民たちが翻弄されていく。ある村に住むナダという女性を愛するアリという青年。しかしアリには彼を慕う「変人」とされる兄弟がいたため、彼女の父は二人を結ばせたくなかった。やがてパレスティナの村々で戦争が始まり、村は避難者であふれれ、アリとナダの間で、これまで二人が守っていたそれぞれの秘密が露になってき、愛に亀裂が生じてくる。
 七人の俳優によって演じられたこの演劇が示すものは今もパレスティナで起こっている現実のドラマでもある。演出家アミールは若い愛し合う男女、兄弟、父、母といった人間関係のよじれ、もつれを描きながら国家という亡霊を浮かび上がらせる。

「I am Yusuf and This is my brother」
演出:Amir Nizar Zuabi
デザイン:Jon Bausor 照明:colin Grenfell 音楽:Habib Shehadeh Hanna
出演:Poul Fox Amer Hlehel Taher Najib Salwa Nakkara Tarez Sliman
Ali Suliman Samaa wakeem Yussef Abu Warda

 ヤング・ヴィック劇場は2001年に「ハムレット」を上演した劇場でもあるが、あれから十年近くたった今、劇場はかなり手を加え,特にカフェやレストランのスペースが広くなった。しかし舞台はともかく、観客席が収容数を増やすためなのか、両脇の席がかなり観にくい並びになっており、演出家泣かせである。私たちが「ハムレット」を上演した時にもかなり悩まされた空間であり、これだけは変わっていなかった。