マオリとの出会い

 ウエリントンでの10日ほどの滞在中、大半は時差ぼけの状態でいやが上にも自然にさからうことへの肉体の脆弱さを知らされた。半ば夢見心地、時差ぼけ症候群での「11&12」のプレイだったが、ここでの大手新聞の批評はロンドンと同じ様に、役者の動きが少ないことへの不満と同時に舞台の美的簡素化への評価など賛否両論が入り交じったものになった。今回の「11&12」はピーターが音楽を強調してくれ、かなり集中した演奏ができていることもあり、ここでもロンドン各紙同様、音楽だけは名前入りで絶賛してくれている。

●日本人作曲家,Toshi Tsuchitori(1976年以来ブルックと共にある)による、小さな楽器を駆使しての、華麗で控え目な生演奏のサウンドスケープ。(nzherald.co.nz)

●ステージの上座にあるToshi Tsuchitoriの演ずる音楽と音響効果は、絶妙かつ見事。(The Domiion Post ) 等々。

 ニュージーランドでは縄文に通じるマオリ文化に触れたいと思っていたものの、とにかく街を散策するにもままならぬ身体の状態で半ばあきらめかけていたのだが、意志は常に持続すべきもの。かすかな思いが通じたのか、フェスティバルの特別プログラムとして組まれたパブリックミーティングにマリエレーヌ、アブドゥーと三人で臨んだ際、参加者の一人の女性から「11&12」を観て音楽に強く惹かれたとの感想があり、その後フェスティバル事務所を通してこの女性から私へのメールが届いた。彼女はマオリ民族のハゼという女性で、私の音楽に自分たちに通じるものを強く感じたため是非、マオリの集会場で音楽家に会ってほしいということだった。ウエリントンについて早々、この街のすばらしい名所の一つでもある国立博物館マオリの音楽に関する本を購入しそれに目を通していたのだが、彼女が会わせたがっていたのがこの著者のリチャード・ナン氏。彼も私の古代音楽研究に非常に興味を抱いたようで是非ともあいたいとのことだったが、ウエリントンから離れた島に住んでおり時間的に今回は無理ということで、彼から音楽や楽器作りを習っているというマオリ人のヘナレ・ウオルメスレイ氏が私にマオリの楽器や音楽を紹介してくれることになった。マオリはほとんど太鼓を用いない。彼らが奏でる楽器は木、骨、石、貝などの自然素材で作った簡素な楽器であるが、とりわけ木の笛は素晴らしいマオリ彫刻が施されている。縄文人と同じ様に楽器の音数は少なく、その音質や音色に敏感で、楽器そのものの形や模様にこだわりを観る。楽器は音の羅列を提供するだけのものではないことがここでも縄文同様に示されている。ウエリントンを離れる一日前のささやかなマオリの人との出会いだったが、これを機に彼らと演奏する日も来るはずだ。

   
マオリの笛を演奏するヘナレ氏          ヘナレ氏のマオリ楽器群